ドラゴン橋から西側の交差点に入るとすぐに見える黄色いフェンスが印象的な「ダナンチャム彫刻博物館」。チャンパ王国時代の彫刻をメインに展示をしており、ダナンの歴史や文化に触れることができます。所有時間は1時間前後で、ダナン中心部に位置しているため、観光のついでに気軽に訪れることができます。
本記事では、彫刻にあまり興味がない人でも物語を読むように楽しめる、ベトナムの古代チャンパ王国の歴史や、ミーソン遺跡の理解が深まるヒンドゥー教の神様について紹介します。
目次
チャム博物館の周り方
屋敷のような大きな門を潜ると、左手にチケット売り場があります。料金は1人6万vnd(約350円)とかなりお手頃です。チケットを受け取り、右手にあるカウンターでスタッフにチケットを渡して、館内へと進みます。
1階はミーソン遺跡から発掘された彫刻や、ミーソン遺跡の写真などが展示されており、2階はチャム族の生活が分かる調度品や衣装の展示、彼らのライフスタイルや祭りなどについて説明されたパネル、ベトナムやチャム博物館の歴史が分かる写真展示などがあります。
100年を超えるベトナム最古の博物館
ミーソン遺跡はフランス統治時代の1898年にフランスの探検家によって発見され、フランスの公共研究機関EFEOによって発掘調査が始まりました。ベトナム戦争が勃発し、ミーソン遺跡の一部はアメリカ軍によって破壊されてしまいましたが、貴重な彫刻類は博物館に運びこまれ、守られました。その後、チャム彫刻博物館は1915年に建設され、1919年に正式に開館しました。
名前の由来となったチャム族とは?
チャム彫刻博物館の名前の由来となっているチャムとは、1500年以上に渡りベトナムの中部から南部を支配していた「チャム族」からきています。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、チャンパ王国の滅亡後ベトナムのチャム族の人口は減少傾向にありましたが、国勢調査によると1999年には約13万であった人口が、2020年には17.8万人に達しており、少しずつ増加傾向にあります。現在のベトナムの人口は1億人目前で、約9割をキン族が占めているため、今もなおベトナムのチャム族は約0.2%ほどの希少な少数民族であることがわかります。
1500年以上続いたチャンパ王国
ベトナムの歴史を知る上で、必ず耳にするのがチャンパ王国です。チャンパ王国は2世紀末から17世紀までベトナムの中南部に存在した王国です。日本で例えると、部落で農業をしていた卑弥呼の時代から身分や法律の制度が整う江戸時代まで、1つの王国が支配していたと考えると、かなりスケールの大きい歴史を持つ王国であったことがわかります。
チャンパ王国の主な住民は「チャム族」であり、インド文化を中心に仏教や海上貿易の強い影響を受けた独自の文化を持っています。チャム彫刻博物館では、ヒンドゥー教の神様の彫刻やサンスクリットで描かれた石板、ブッダの仏像が同じ空間に調和した、様々なアジア文化を掛け合わせたような独特な雰囲気を感じることができます。
ミーソン遺跡との深い関係
チャム彫刻博物館は、チャンパ王国時代の彫刻や遺物が保管されている博物館です。展示物のほとんどがミーソン遺跡(ダナンから車で約2時間、ホイアンから約1時間)から発掘されたものです。
ミーソン遺跡ではチャンパ王国の主な信仰宗教であるヒンドゥー教シヴァ派の影響を強く受けており、彫刻からもそれを感じることができます。ミーソン遺跡には数多くのレンガ造りの寺院建造物や彫刻がありますが、セメントや漆喰などの接着剤を使った形跡が無く、当時のチャム族は高度な建築技術を持っていたと言われています。
ヒンドゥー教の神様
ヒンドゥー教では宇宙はブラフマーによって創造され、ヴィシュヌが繁栄をもたらし、シヴァが破壊しまた創造されるという理念のもと「三神一体説」が唱えられています。チャム彫刻博物館やミーソン遺跡を周る際には、それがなんの神様か、どんなストーリーがあるかを知るだけで、より楽しむことができるでしょう。
「ブラフマー」宇宙創造の神様
ブラフマーは「創造」の役割があり、宇宙や生命のあらゆる存在の始まりを司ります。ブラフマーは赤い肌の男性の姿で表現され、4つの顔は四方を見渡した全知であることを象徴し、4本の腕にはヴェーダ、水壺、数珠、蓮の花を持っています。
ブラフマーの妻であるサラスヴァティーは知識や芸術や音楽の女神として知られており、チャム彫刻博物館にも展示してるので是非探してみてください。
「ヴィシュヌ」維持と繁栄の神様
ヴィシュヌは「維持」の役割があり、宇宙の調和と秩序を保ちます。ヴィシュヌは青い肌を持ち、写真の姿では4本の腕には円盤、巻貝、棍棒、蓮の花を持っています。そのほか、ヴィシュヌは複数の化身(アヴァターラ)として地上に現れ世界を救ってきたとされ、ブッダもヴィシュヌの化身の一つだと言われています。
ヴィシュヌの妻である富・繁栄・幸運の女神ラクシュミーとともに宇宙の調和を保つ役割を担っています。
「シヴァ」破壊と再生の神様
シヴァは「破壊と再生」の役割があり、破壊によって悪を取り除き、創造によって新たな秩序をもたらします。チャンパ王国で最も崇拝されていた存在であり、リンガの形で表現されることが多いです。日本でもおなじみの七福神の大黒天は、シヴァが日本に伝来する際に変容し適応していったものだそうです。
額にある「第三の目」は、知恵と霊的な洞察力の象徴とされており、破壊的な側面だけでなく慈悲深い瞑想者としての側面も持ち合わせています。シヴァは普段ナンディと呼ばれる牛に乗っているそうです。
「リンガとヨニ」子孫繁栄のシンボル
チャム彫刻博物館の館内に入るとまず最初に目にするのが、こちらの「リンガとヨニ」です。縦に伸びるリンガは男根を意味し、創造のエネルギーやシヴァ神の象徴として円柱状の形をしています。横に突き出るヨ二は女陰を意味し、生命の源や女性的なエネルギーを象徴しています。
チャンパ王国の時代にはリンガとヨニを取り囲み、子孫繁栄を祈る祭祀が行われていたそうで、今でも繁殖力と豊かさのシンボルとして知られています。リンガとヨニはチャンパ王国の中で最も多い彫刻で、ミーソン遺跡でもよく目にします。
「ガネーシャ」ゾウの頭を持つ神様
シヴァ神には数百の妻がいたと言われていますが、その中でも最も愛した妻と言われるのが、複数の異名を持つ「パールヴァティー」。そんな二人の間に生まれたのが、学問と商売の神様「ガネーシャ」です。新しい始まりや成功を祈る際に崇拝され、障害を取り除いてくれると信じられています。
ガネーシャは元々頭も人の姿をしていたのですが、シヴァ神の怒りを買い切り落とされ、代わりに旅で最初に出会ったゾウの頭を付けられたという神話があります。
体験後記
私は平日の午後2時ごろにチャム彫刻博物館を訪れたのですが、施設が広いこともあり、混んでいなかったのでゆっくり彫刻を見たり写真を撮ったりして周ることができました。館内はローカルの人もいましたが比較的観光客が多い印象で、ツアーで来ている人も多かったです。私は彫刻に強い関心があるわけではないのですが、各国の歴史や文化を知るのが好きで、チャム彫刻博物館を訪れてみました。
実際にそれらを作った人や生活していた人のことを想像しながら見ていると、当時のチャム族の強い信仰心と豊かな想像力を感じました。ただ1階は特に彫刻をライトアップしただけのシンプルな展示なので、ビジュアル的な変化が少なく、彫刻に興味があるまたは歴史や文化に興味があるという人でなければ、少し退屈に思うかもしれません。
時間がなくてミーソン遺跡に行けない人でも、チャム彫刻博物館に行くだけでチャンパ王国の歴史や文化など充分に知ることができるので、気軽に足を運んでみてはいかがでしょうか。
名前 | Danang Museum of Cham Sculpture |
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住所 | Số 02 Đ. 2 Tháng 9, Bình Hiên, Hải Châu, Đà Nẵng 550000, Việt Nam |
電話番号 | 02363572935 |
メールアドレス | - |
営業時間 | 07:00–17:00 |
ウェブサイト | http://chammuseum.vn/ |